今日もひとり鉄道旅

蜂谷あす美

RAILROAD COLUM vol.20



旅の文筆家、蜂谷あす美が時刻表を携え、日本全国を鉄道でめぐる一人旅。

記念すべき二十回目の今回は、一味変わった鉄分補給。

台北へ母子ふたり鉄道旅をお届けします。


日本の新幹線700系をベースとした台湾高速鉄道の車両
日本の新幹線700系をベースとした台湾高速鉄道の車両

 本連載タイトルにもあるように、もっぱらひとり旅ばかりに出かけている。好きなように行程を組み立てられるし、宿も「寝られればいい」の自分軸で選べるからだ。端的に言えば、協調性に乏しく、ただただ自由に移動したいだけなのである。

 そんなわたしにも、人と出かける機会が訪れる。編集者やカメラマンと同行する取材旅行。そしてもうひとつが、母子旅だ。

 これまで台湾に3度出かけ、そのたびに「楽しかった」と母に感想を伝えてきた結果、2024年9月、「わたしも行きたい」と言う母とともに台湾2泊3日旅に出かけることになった。航空会社もひとりならまずLCCを検討するところだが、母へのおもてなしとして台湾のフラグシップ、エバー航空を選択した。

台湾のフラグシップ、エバー航空
台湾のフラグシップ、エバー航空
台湾高速鉄道の左営駅
台湾高速鉄道の左営駅

台湾南部の都市・高雄の夜市
台湾南部の都市・高雄の夜市

意地で乗り込む台湾新幹線

 

 成田発の便は夕方に台湾南部の都市、高雄に到着。ふだんであれば「さあ、鉄道旅の始まりだ!」とさっそく駅に向かうところ、早々に宿に荷物を預け、そのまま市内の六合夜市へ出かけた。ネットで人気とあった有名店舗の海鮮粥をいただき、まだ全然移動していないにもかかわらず、足つぼマッサージで旅の疲れをほぐした。

 翌日、高雄から台北への移動は台湾高速鉄道(台湾の新幹線)に乗車。これは意地の旅程である。ひとり旅と異なり、どうしても「乗り物成分」が薄れてしまうことから、せめてルートだけは台湾高速鉄道に乗れるプランにしようと最初から決めていた。車両は東海道新幹線でかつて走っていた700系をベースに開発されたもので、車内に足を踏み入れた途端、見慣れた座席配置が目に飛び込んでくる。窓の外に広がる見知らぬ南国の風景と、どこか懐かしい車内との落差に、しばらく「ここはどこだっけ」という感覚が抜けなかった。高雄から台北までおよそ1時間半の鉄分補給タイムである。

台湾高速鉄道車内。 日本と同様の2人席+3人席の配置
台湾高速鉄道車内。 日本と同様の2人席+3人席の配置
台北駅の構内
台北駅の構内

JR東日本が運営する ホテルメトロポリタン台北
JR東日本が運営する ホテルメトロポリタン台北
ホテル外観
ホテル外観

台北はバスが楽しい

 

 台北に着いてからの足は、路線バスを主に使うことにした。台湾はタクシーも日本より安く、母子旅ならその選択肢もあった。それでもあえてバスを選んだのも、やはり公共交通を楽しみたい者としての意地である。グーグルマップに目的地を入れるだけでどのバスに乗ればいいかわかるうえ、台北市内の幹線道路には車道のまんなかにバス専用道が整備されているため、渋滞をよそにすいすいと進む。運転が荒い以外は快適だった。 さらに台北での宿は「ホテルメトロポリタン台北」を選んだ。実はこれ、JR東日本が運営する日系ホテルである。母向けの理由は「日系ホテルなら安心」、真の理由は「鉄道会社が運営しているから」である。母子旅で薄れがちな鉄分を、宿でこっそり補う涙ぐましい画策である。

 

台北最大級の問屋街・迪化街。レトロな建物が並ぶ観光地
台北最大級の問屋街・迪化街。レトロな建物が並ぶ観光地
「漁師網バッグ」を扱う店舗
「漁師網バッグ」を扱う店舗

 

 最終日は乾物や漢方、布地を扱う老舗が軒を連ねる迪化街を散策した。目当ては「漁師網バッグ」を扱う店だった。漁師網バッグとは、カラフルなボーダー柄が特徴のナイロン製メッシュバッグで、もともと台湾の市場で使われてきた生活用品。そのレトロな佇まいが近年観光客の間で人気を集め、台湾土産の定番となっている。店での母の様子をそっと見ていると、中国語をひと言も解さないにもかかわらず、日本語だけで店の方と堂々とやり取りしていた。相手もそこまで日本語に精通しているわけではないはずなのに、なぜかちゃんと伝わっていた。ずっとそばにいたはずの身内に、知らない顔を見た気がした。

 人と出かけると、ふだんの「好きな旅」とは違う旅になる。航空会社も、宿も、食事も、ひとりなら選ばないものを選ぶことになり新鮮な体験に溢れている。そしてよく知っているつもりの身内に、知らない面を見せてもらえることもある。母子旅の収穫は、高速鉄道と路線バスだけではなかった。

 

(文・写真 蜂谷あす美)

日本と同様、降車ボタンで下車するしくみ
日本と同様、降車ボタンで下車するしくみ
台北市内の路線バス
台北市内の路線バス


蜂谷あす美(はちやあすみ)

鉄道と旅を中心としたエッセイや紀行文などを執筆。

2015年1月にJR全線完乗。



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