今日もひとり鉄道旅

蜂谷あす美

RAILROAD COLUM vol.02



旅の文筆家、蜂谷あす美が時刻表を携え、日本全国を鉄道でめぐる一人旅。

年末の根室本線を訪ねたときの思い出をお届けします。

極寒の北海道で今回も美味しい出逢いがありました。


冬こそ北海道に行きたい

 

 好きな路線は?と尋ねられたら、迷わず根室本線、それも「花咲線の区間」と答えている。根室本線は、道央の滝川から北海道の東端、根室を結ぶ446.8キロの路線で、釧路~根室135.4キロの道東区間には、愛称「花咲線」が付されている。釧路までは札幌から特急列車が運行されており4時間強でたどり着くことができるが、その先は普通列車しか走っておらず、所用時間はおよそ2時間半。訪問の難易度は高めだ。

 2015年12月29日の私は、この花咲線に乗るべく、たんちょう釧路空港に降り立った。

「時間は特に決まっていなくて、皆さん乗車されたら発車します」

地方空港と中心駅を結ぶバスは到着便に接続してくれる点がありがたい。ダイヤは一応決まっているものの、飛行機が遅れたら待ってくれるし、空港内の雰囲気で「もう乗る人はいなさそうだ」と判断したタイミングで発車する。逆にいうと、トイレにこもってもたもたしていると置いていかれるのだ。

さんまと大葉、そして炊き込みごはんが 三位一体となった「さんまんま」
さんまと大葉、そして炊き込みごはんが 三位一体となった「さんまんま」
幣舞橋から見る釧路川。 夕方にはあたり一帯がオレンジに染まる
幣舞橋から見る釧路川。 夕方にはあたり一帯がオレンジに染まる
釧路駅から続く大通りを貫く幣舞橋
釧路駅から続く大通りを貫く幣舞橋

 およそ1時間かけて釧路駅に到着したのちは、釧路川に架かる幣舞橋へ向かう。

「世界三大夕日」が楽しめることで知られる橋だ。夕暮れにはずいぶん早いものの、橋上で海を眺め、足早にあとにした。

なにせ寒い。北海道の冬はスケールが違う。ここ道東は降雪量こそ少な目だが、日中も氷点下の世界であり、日本海側の湿った冬が優しく感じられるほど顔の表面が痛くなる。早々に橋のたもとの観光施設「フィッシャーマンズワーフMOO」に突入し、ぬくぬくしながら昼食を物色。 

においに誘われ、さんまと大葉、そして炊き込みごはんが三位一体となった食べ物「さんまんま」をいただいた。脂のノリとご飯のもちもちが悶絶するおいしさで、店のおじさんに「配送もあるよ」と言われるまま、実家への送り状に記入、クール便込みの料金を払ったことで、まるで旅の全行程を終了したかのような満足感を得た。

フィッシャーマンズ ワーフMOO 名物「カ ニのクレーンゲーム」
フィッシャーマンズ ワーフMOO 名物「カ ニのクレーンゲーム」
釧路駅は道東の中心都市にふさわしい大きさ
釧路駅は道東の中心都市にふさわしい大きさ

なぜ根室本線に惹かれるのか

 

 いや、目的を果たさねば。

13時半、釧路発根室行の普通列車に乗り込む。外は寒いくせに、車内も含めた屋内はこれでもかというくらい暖かいのが北海道の特徴だ。列車は市内を抜け、釧路湿原を走っていく。車窓に鹿の家族が見えるのは北海道のお楽しみ。もっとも、鉄道にとっては「衝突事故」を起こしかねない対象で、実際に時々事故が起きることから、この地域の列車にはシカ専用の警報器が取り付けられている。

 湿原地帯には、こんもりとした坊主頭がまとまって見える。「谷地坊主」といい、古株のうえにスゲ植物が生い茂ったものだ。奇妙な景観に始めはぎょっとするものの、何度も眺めているうちにその「キモカワイさ」に心奪われ、こうして何度も花咲線に乗車するようになってしまう。

15時半を過ぎ、海に日が落ち始める
15時半を過ぎ、海に日が落ち始める
古株のうえに スゲ植物が生い茂った 「谷地坊主」
古株のうえに スゲ植物が生い茂った 「谷地坊主」
列車は延々と湿原を走る
列車は延々と湿原を走る
ただ1 本の線路が続くのみ
ただ1 本の線路が続くのみ

 列車は、厚岸を過ぎ、再びの湿原地帯を経て景色を一変させる。まるで地の果てに来たかのような茫漠とした原野が広がっているのだ。前を見ても、後ろを振り返っても、ただ1本の線路が敷いてあるのみで、果たして自分はどこから来たのか、そしてこの先に町があるのか、同じ日本とは思えない車窓に包まれていると、とたんに不安になる。また、15時半を少し回ったばかりというのに海はオレンジ色に染まり、道東の日の短さを思い知らされる。

16時前、列車は終点に到着。

駅前のスーパーで夜のおやつを見繕い終わった頃には、あたりはすっかり夜だった。ちなみに日の出は恐ろしく早いので、道東滞在時には、宿のカーテンをぴっちりしめて就寝されることを推奨する。

 宿に荷物を預けたのち、夕食へと出向く。地表にうっすら降った雪が凍っている。皮膚にピリピリとした痛みを感じつつ、人通りのない道を滑らぬよう歩きながら、炉端焼き店に入れば、地元の人が賑やかに食事をしていた。冬の北海道人、屋内にいがちだ。

 牡蠣をいただき、シシャモを食べ、「遠くからの旅行者」にサービスでくださったイカ焼きを食べ、身心ともに温まり、そして宿への道で再び芯まで冷えた。

 

(文・写真 蜂谷あす美)

暖かな炉端焼き店で夕食
暖かな炉端焼き店で夕食
カキ、それにシシャモ
カキ、それにシシャモ
〆はイカ焼きで
〆はイカ焼きで

根室駅は日本で最も東に位置する有人駅。
根室駅は日本で最も東に位置する有人駅。
16 時半前にして根室市内は夜。
16 時半前にして根室市内は夜。