蜂谷あす美
RAILROAD COLUM vol.14
旅の文筆家、蜂谷あす美が時刻表を携え、日本全国を鉄道でめぐる一人旅。
年初の混雑の中、帰路を遠回りして高山本線へ。
鉄ちゃんならではの旅の楽しみ方をお届けします。
季節を問わず行きたいところへ
一般の旅行だと、春は桜、秋は紅葉といった具合に目的地の選定に季節性が多少考慮されるものと思う。
ところが鉄ちゃんの場合は、少なくとも私は、台風や降雪など列車の運転への支障は気にかけこそすれども、それ以外は無頓着だ。
理由を無理やり作り上げるとするならば、愛用している時刻表の路線図が1年を通して同じ色味、デザインであることが大きいのかもしれない。
山の無人駅、猪谷へ
実家の位置する福井への帰省から、居住地である神奈川への帰り道は、なるべく遠回りをしたい。帰省も「旅」としてカウントするためだ。
2019年の年初に選んだのは、福井から富山へ北上したのち、高山本線を経由して太平洋側へと抜けるルートだった。
母からは「寒い時期に、なぜそんなところへ」と問われたものの、単に時間や行程の手配上、最も都合がよかったためである。
高山本線は、富山~ 岐阜を結ぶ225.8キロの路線で、特急「ひだ」であれば両端を4時間弱で結ぶ。もっとも、特急列車で一気に走り去るのはもったいなく、私は普通列車を選んだ。
富山駅に現れたのは、新潟の大糸線と同じキハ120という少し小ぶりの列車だ。帰省客や旅行客を乗せての発車となった。車内外の寒暖差により結露した窓を手で拭うと、鈍く曇った田園地帯が広がっていた。
列車はおよそ1時間弱で終点の猪谷駅に到着。一見するとただの「山のなかの無人駅」だがJR西日本とJR東海の境界駅になることから、乗り換えが求められる。
ホームの列車乗降部分は除雪がなされているものの、中央部分は水気の多い雪が残っている。ざくざくと踏みしめながら向かいの列車へと進む。オレンジ色の帯をまとったロングシートの車内は、足元にヒーターが設置されていて、外の寒さを一切感じさせない。
車窓にへばりつく宮川の流れを追っているうちに高山駅に至った。
高山といえば、飛騨牛、城下町の古い町並み、それに人形「さるぼぼ」と食も見どころも充実した超定番観光スポットなのだが、久しぶりに訪問して最も驚いたのは、あちこちにインバウンド客の姿が見られたことだ。体を芯から冷やす寒さをものともしない海外からのお客さんたちが元気に闊歩する夕暮れ、私はまっすぐ宿に逃げ込んだ。
混雑の回避方法
翌朝は、ぶらぶら高山の街中をさまよった後、美濃太田行き(岐阜方面)へと向かう普通列車に乗り込んだ。まったく想定外のことに立ち客が出るほどの混雑ぶりで、車窓を楽しむ「のんびり鈍行旅」からはかけ離れてしまった。
かろうじて座席は確保できたものの、続く乗換えも混雑が予想された。そこで終点の美濃太田で接続のよい列車を見送り、昼食の時間とすることにした。
終点岐阜から、名古屋に移動し、あとは東海道新幹線で帰るだけ。この日は年初であり、同じようにUターンする人で指定席はほぼ埋まっていた。こちらは、普通列車を1本見送るなど自由な旅をしている身で、きっぷの確保はしていない。
ならばどうしたかというと、名古屋始発「こだま」自由席に狙いを定め、少し早めに待機、結果的に着席しての楽々帰宅となった。
季節を問わず旅するのに加えて、細かなテクニックで混雑から逃げようとするのも、鉄ちゃんの性質といえるかもしれない。
(文・写真 蜂谷あす美)