蜂谷あす美
RAILROAD COLUM vol.13
旅の文筆家、蜂谷あす美が時刻表を携え、日本全国を鉄道でめぐる一人旅。
郡家駅から若桜駅を結ぶ若桜鉄道へ。
自分だけの秋を見つける小さな旅をお届けします。
田園風景と秋景色
外出をためらうほどの暑い夏がようやく終わり、旅にうってつけの季節がめぐってきた。鉄道旅行ではこの時期「紅葉の楽しめる路線」が大いに注目を集める。ただし、こうした有名路線は宿命「混雑」から逃れられない。そこでおすすめしたいのが自分だけの秋を見つける小さな旅だ。
2022年10月、島根県松江市での講演仕事を終えた私は、自分へのご褒美として若桜鉄道の旅を用意していた。
若桜鉄道は、郡家駅(鳥取県八頭町)から若桜駅(鳥取県若桜町)までを結ぶ19.2キロの短いローカル線。新潟からであれば、飛行機、または新幹線で大阪へ、そこから特急「スーパーはくと」におよそ2時間半揺られた先にある。
郡家駅のホームには、八頭町特産の柿をイメージした茶褐色の外観が目を引く観光列車「八頭号」が待っていた。
乗り込めば、木材がふんだんに使われた温かみある空間が迎えてくれる。若桜鉄道では、観光列車としてこのほかに「若桜号」「昭和号」も走っており、どれも普通のきっぷで乗車できるのが嬉しいポイントだ。
発車後、ボックス席のテーブルに頬杖を突きながら流れていく景色をただぼんやりと見ていた。山に囲まれた田園風景のなかを単線の線路が続き、その両側ではススキの穂が揺れている。
まろやかな秋景色には、歴史を感じさせる無人の木造駅舎もあらわれる。
若桜鉄道は、もともと国鉄若桜線として1930年に開業。開業当時のままの駅舎も多く、時間をさかのぼった旅が楽しめる。郡家駅からおよそ1時間で到着する終点、若桜駅もそうした歴史ある木造駅舎の一つだ。
地元の方とふれあいながら
駅前の観光案内所にてレンタサイクルを申し込むと「鉄道で来た人はレンタル無料」という大変嬉しい特典が待っていた。さらに身分証として運転免許を見せれば「ゴールド、すごい!わたし1回もなったことないんです!」と職員さん。ちょっとしたやり取りを交わすのも旅の醍醐味だと思っている。ちなみにゴールドなのは首都圏暮らしゆえ、車を運転する機会がほとんどないためである。
自転車にまたがり、案内所で勧められた「道の駅 若桜」に向かう。入り口ではおじさんが鮎を焼いていた。
「そこの川で朝から晩まで釣っとる。今シーズンは3500匹釣った」
おじさんは誇らしげに語りながら、手作りの甘露煮もおまけで付けてくれた。
若桜は江戸時代以降、鳥取と姫路を結ぶ若桜街道と伊勢道の宿場町として発展した地。その後、明治の大火で焼き尽くされてしまったことから、延焼防止のために、裏通りは蔵の新築のみが許された。
結果、路地裏に一歩入り込めば、およそ300mにわたって商家の土蔵が連なる風情溢れる町並みが形成されることに。
訪れたのは日曜だったけれどほかに観光客はおらず、自分のペースで散歩が楽しめた。
自分だけの小さな秋探し
そろそろ帰り時間も迫ってきたので、駅に戻る。若桜駅は蒸気機関車時代の給水塔や転車台が今なお残り、それらを自由に見て回れる。ちなみに見学終了時間は「日没まで」とおおらかな設定。広い構内から、赤く染まりゆく山々を仰ぎ見た。
郡家方面に向かう復路の列車は、往路のそれとは打って変わり、スズキの大型バイク「隼」のラッピングが一面に施された武骨なデザインだった。なぜバイク。その答えは沿線に車種名「隼」と同じ名前の駅があることに由来する。駅にはバイク乗りの方々が列車見学に来られていた。
2022年の私は、鳥取県の山間部で小さな秋を楽しんだ。もっとも、乗り込んでしまえば、どこであろうと窓の外に季節が流れていくのが鉄道旅の魅力。
ぜひ皆さんにも自分だけの秋を探す鉄道旅に出かけてみてもらいたい。
(文・写真 蜂谷あす美)