今日もひとり鉄道旅

蜂谷あす美

RAILROAD COLUM vol.11



旅の文筆家、蜂谷あす美が時刻表を携え、日本全国を鉄道でめぐる一人旅。

夜の東京から人気の寝台列車で一路、高松へ。

瀬戸内海を車窓と船窓から楽しむ「味変旅」をお届けします。


東京駅から乗り込んだ「サンライズ瀬戸号」
東京駅から乗り込んだ「サンライズ瀬戸号」

今では貴重な寝台列車

 

 2023年5月初旬、私は東京発高松行きの寝台特急サンライズ瀬戸に乗車していた。

 寝台列車は、かつて国内あちこちに走っており、日本海側であれば、「日本海」(大阪~青森)、「トワイライトエクスプレス」(大阪~札幌)、「きたぐに」(新潟~大阪)などが見られた。

ただし2024年現在、これらはすべて引退済み。定期列車として運行しているのは、1998年デビューの特急サンライズ瀬戸・出雲のみだ。両者は起点となる東京を21時50分に出て、途中の岡山までは、一つの列車として併結運転、切り離し作業を経て瀬戸号は香川県の高松駅(7時27分着)へ、出雲号は島根県の出雲市駅(9時58分着)へと向かう。

 サンライズは車内設備が特徴的で、向かい合わせの二段ベッドに間仕切り代わりのカーテンといった、一般にイメージする寝台列車からは大きくかけ離れており、寝台はすべて個室。さらに洗面台付きの豪華なタイプから、2人用の2段ベッドタイプ、ツインベッドタイプまでさまざま用意されている。

 白状すると本当は「出雲号」に乗りたかった。「瀬戸号」よりも終点までの所要時間が長く、寝台列車をたくさん楽しめるためだ。しかし出雲大社擁する観光地へ向かう列車であることから1年を通じて人気が高く、きっぷ発売時刻である、出発日1か月前午前10時に駅窓口を訪ねるも残念ながら満席。

次善の策として空席のあった「瀬戸号」を選んだ。

 発車後、室内の照明をあえて落とし、窓の外をそっと眺める。闇の中に家々の明かりを見つけ、感傷的な気分に浸ってひとしきり満足したところで、就寝。

翌日は早々に起床し、瀬戸大橋の上から朝日を楽しんだ。

瀬戸大橋の上から朝日を拝む
瀬戸大橋の上から朝日を拝む
利用した個室「シングル」。内側から施錠が可能
利用した個室「シングル」。内側から施錠が可能
車内は二階建て構造になっている
車内は二階建て構造になっている

鉄道旅から船旅へ

 

 高松からは、特急いしづちに乗車し、四国の上辺を結ぶ予讃線で西へと向かう。晴れ渡った空にさっぱりとした瀬戸内海が映え、旅気分もいよいよ盛り上がる。なお、まるで四国旅の序章のような書きぶりだが、四国編は終点の松山駅で終わる。

 瀬戸内海には四国と本州、九州の各地を数時間程度で結ぶ航路がいくつもあり、時刻表の索引地図上では、それらが幾筋もの線として描かれている。

鉄道だけの旅だと、どうしてもバリエーションが限られてくることから、たまに別の乗り物で味わいに変化を付けたい。最終的には「乗ったことがないから」という理由で松山市と広島県呉市をおよそ2時間で結ぶ瀬戸内海汽船の航路を利用することにし、フェリー乗り場に向かった。

高松駅は、JR四国のキャラクター 「たかまつえきちゃん」に彩られている
高松駅は、JR四国のキャラクター 「たかまつえきちゃん」に彩られている
予讃線(高松~松山)を走る特急いしづち
予讃線(高松~松山)を走る特急いしづち
2019年デビュー「シーパセオ
2019年デビュー「シーパセオ

からりとした瀬戸内海が車窓に楽しめる
からりとした瀬戸内海が車窓に楽しめる

 フェリーというと、「カーペットでごろ寝」をイメージする人が多いかもしれない。ところが松山側の拠点である松山観光港にゆっくり入港してきたフェリー「シーパセオ」は、その先入観を大きく覆す。2019年就航の船内はリクライニング席やカフェ席、テラス席など多様なシートが並び、それらが運賃だけで利用できる。しかも季節ごとのメニューを用意した売店もある。私は客室最前部のソファ席に陣取り、レモンケーキを食べながら海原を眺め、テラスで風にあたり、再び席に戻って白玉ぜんざいを味わうと、また船内をうろついた。移動中に広々とした空間を自由に歩き回れるのは、鉄道にはない魅力だ。

 松山観光港には、鉄道駅でよく見られるような、我が子を見送る両親の姿があった。呉の知り合いからは、この航路を利用して仲間たちと松山市内の道後温泉まで出かけていると聞き、内海に暮らす人たちには、フェリーが身近な存在なのだと知った。

 ちなみにフェリーで一番乗りたいのは、苫小牧(北海道)から秋田、新潟を経由して敦賀までを結ぶ所要約21時間の新日本海フェリーだ。旅の「味変」に使うことをゆめみるうちに15年の月日が経過。タイミングうまく合わず、まだ実行には至っていない。

 

(文・写真 蜂谷あす美)

まるでカフェのような船内
まるでカフェのような船内
船尾には靴を脱いで上がる「ハナレ」も用意されている
船尾には靴を脱いで上がる「ハナレ」も用意されている
平清盛が切り開いたとされる海峡「音戸の瀬戸」
平清盛が切り開いたとされる海峡「音戸の瀬戸」
間もなく呉港に到着
間もなく呉港に到着