蜂谷あす美
RAILROAD COLUM vol.10
旅の文筆家、蜂谷あす美が時刻表を携え、日本全国を鉄道でめぐる一人旅。
今回は日本を飛び出し、「最後の客車列車」を求めて台湾へ。
異国の地で目に焼き付けた旅の記憶をお届けします。
日本と類似点の多い、台湾
「客車列車が2020年末で運行終了する」
情報を聞きつけて出かけたのは2020年1月のこと。ただし向かった先は台湾だ。
台湾を鉄道の視点で見ると、九州によく似ている。九州を一回り小さくしたサイズの島に、鉄道が環状で敷かれている。加えて、博多と鹿児島中央を結ぶ九州新幹線のように、西側には新幹線にあたる「高速鉄道」が縦断、北の都市、台北と南の都市、高雄をおよそ90分で結んでいる。島内を東西に横断する路線がない点を除くと、九州感覚で乗りつぶしも楽しめてしまう。
類似性でいえば、Suicaのような交通系ICカードとして「悠遊カード」が発達している点も挙げられる。
ただし日本と異なり、数えきれないくらいさまざまなデザインが流通、コンビニを含めあちこちで売られているこから、鉄ちゃんの収集癖を大いにくすぐる。深夜、台北近くの桃園空港に降り立ち「訪台3回目」を達成したわたしは、3枚目の「悠遊カード」を入手していた。
最後の客車列車
ところで冒頭の「客車列車」についてだが、これは台湾の列車種別でいうと最下等の「普快車」のことを指す。
機関車が乗客の乗った客車を引く、昔の寝台特急のようなスタイルで、何よりの特徴は「冷房」が備わっていない点に尽きる。料金も一番安く設定されていた。かつては台湾内のあちこちで運行されていたものの、最後まで残っていたのが、台湾南東部の台東~枋寮だった。
この時の旅では、台湾を時計回りでまわる行程を組み立て、早朝の台北駅で時刻表を片手に最初の列車を待っていた。もっとも台湾には、日本のような紙の時刻表は現存せず、私が所持していたのは、日本の有志が翻訳・編集した「非公式時刻表」を指す。
ホーム上をうろつき、あれこれ写真を撮っていた姿が明らかに不審な海外旅行客だったのだろう。地元のおじさんに、どこに行くのか尋ねられた。たどたどしい中国語とスマホの翻訳アプリを活用し、高雄へ向かうことを述べると、「高雄行きの列車ならあっちだ!」と高速鉄道の乗り場を示す。思案したうえで「私は鉄道旅行が好きです。ゆっくり高雄まで向かおうとしてるのです」の旨を伝え、なんとか納得してもらった。
自から「鉄道好きです」と宣言するのは、いつまで経っても恥ずかしい。
グルメと景色を楽しんで
各駅停車と特急列車を乗継ぎ、途中の花蓮という街で昼食を兼ねた休憩をとる。食事内容が「ワンタン」だった以外は大して日本の鉄道旅と変わらないスタイルで南下を続け、台東へと至った。
16時16分、列車はディーゼル機関車にけん引されて台東駅を発車していく。
1月であっても台湾の気温は20度近く、むしろ暑いくらいだ。窓を押し上げれば心地よい風、それにディーゼルの匂いが入り込み、眼前には目いっぱいの海が広がる。土地の空気を直接吸い込むことで、その景色が余計に愛おしくなる。
18時22分、すでに日の暮れた終点の枋寮からは再び特急に乗り、高雄へ。
屋台の連なる「夜市」で、小籠包や、パッションフルーツなどの買い食いを楽しみながら、この日の列車旅を振り返った。
海外渡航が制限される1か月前の出来事だったこともあり、今も強く記憶に残っている。
なお、2020年12月をもって引退したはずの「普快車」は現在、ちょっとお高めの旅行商品専用列車として運行している。引退したはずの列車が「団体用」「ツアー用」へと生まれ変わる例は日本でも見られ、変なところもよく似ている。
(文・写真 蜂谷あす美)