今日もひとり鉄道旅

蜂谷あす美

RAILROAD COLUM vol.17



旅の文筆家、蜂谷あす美が時刻表を携え、日本全国を鉄道でめぐる一人旅。

空路を経て釧網本線で網走から釧路へ。

「ない」ことを楽しんだ道東の旅をお届けします。


網走発釧路行きの快速しれとこ摩周号
網走発釧路行きの快速しれとこ摩周号

目的地までが旅の醍醐味

 

 2022年の晩秋、北海道は道東の釧路市に住む鉄道趣味仲間から「みんなで貸切列車をするから遊びに来ないか」と誘いを受けた。首都圏に住むわたしにとって釧路までの最も適切なアクセス手段といえば、羽田空港発釧路空港行きの空路を利用することだが、せっかくならば現地までの道のりも楽しみたい。

 そうして貸切列車開催日の前日朝、降り立ったのは、同じ道東でも釧路から北におよそ130キロに位置する女満別空港だった。この空港を選んだ理由は「利用したことがなかったから」に尽きる。「行ったことがない、食べたことがない、やったことがない」に思考は傾きがちだ。

オホーツクエリアの玄関口、女満別空港から旅が始まった
オホーツクエリアの玄関口、女満別空港から旅が始まった
網走市の中心駅、網走駅
網走市の中心駅、網走駅
網走の観光地といえば「網走監獄」
網走の観光地といえば「網走監獄」

長旅も快適に

 

 女満別空港からバスで網走駅に移動し、構内の駅弁店「モリヤ商店」で昼食を調達する。この駅弁店がおもしろいのは、厨房機能を備えた本社が駅近くに位置しており、仮に店頭に商品が置いてなくても、ちょっと待てば作り立てを届けてくれる点にある。

 さっそく弁当を片手に、釧路に向かって釧網本線に乗り込んだ。釧網本線とは、その名前のとおり「釧路」と「網走」を結ぶ全長166.2キロの路線。道東の主要都市を結んでいるが特急列車

は走っておらず、所要時間はおよそ3時間。こう書くと、なんだかハードな移動にも思えてくるが、釧網線の車両の座席はもともと0系新幹線で使用されていたもの。そのため、一般に思い浮かべる「普通列車」の座席にくらべると、かなりふっくらゆったりしていて、特急列車に近い乗り心地だ。

 12時24分の発車後、列車は左手にオホーツク海を見せながら、東へと進んでいく。真冬に訪れれば流氷もやってくる一帯で、沿線の駅には流氷を見るための見晴らし台も設置されている。遠くには

知床連山も見える。

網走駅待合室の駅弁店、モリヤ商店
網走駅待合室の駅弁店、モリヤ商店
もともと0系新幹線で使用されていたシート
もともと0系新幹線で使用されていたシート
茫漠とした釧路湿原
茫漠とした釧路湿原

変わる景色を楽しみながら

 

 知床斜里駅を出たのちは、海に別れを告げて南下していく。ぼんやりと景色を眺めているうちに、時刻は11時半を過ぎた。

 網走駅で購入した駅弁「いくら数の子弁当」を開く。炊き込みご飯の上に、数の子をばらしたものと、いくらが乗っており、さらに両者を隔てるようにして間に数の子が一本横たわっており、魚卵好きにとっては夢のような弁当である。プチプチとした食感を噛みしめながら、「こんな贅沢なものを食べるなんて……親不孝にもほどがある」と心の中でつぶやいた。

豪勢すぎる駅弁「いくら数 の子弁当」
豪勢すぎる駅弁「いくら数 の子弁当」

車窓にオホーツク海を見せながら釧網線は進む
車窓にオホーツク海を見せながら釧網線は進む

 順調に南下を続けた列車は釧路湿原と呼ばれるエリアに入っていく。網走からの釧路行きを目指したのには、この景色も大きく影響している。時折沼が見える以外は、足の短い草木が生えているだけの茫漠とした様子は、本州で見られるような険しい山河とはまったく異なる。この先に本当に街が出てくるのか不安になるほど。いくぶんか感傷的になれるこの時間が好きだ。

 釧路までの道中は割合しんみりしていたのに対して、到着後の夜は忙しない。まずは当地の名物、ザンギをいただく。唐揚げを濃い目に味付けしたような食べ物で、骨付きタイプ、骨なしタイプをそれぞれ一人前平らげた。店を移動し、特製のタレでつぶ貝を焼いた郷土料理「つぶ焼」を注文し、釧路の夜を楽しんだ。

 ちなみに北海道は、観光シーズンである夏場こそ旅行代金も高めだが、秋から冬にかけては航空券や宿泊料金も比較的リーズナブルに済む。特に道東は、あまり雪も降らないのでおすすめだ。

 

 (文・写真 蜂谷あす美)

下味のしっかりついた「ザ ンギ」
下味のしっかりついた「ザ ンギ」
特製のタレが出汁のうまみ を引き立てる「つぶ焼」
特製のタレが出汁のうまみ を引き立てる「つぶ焼」
道東のまち、釧路に到着
道東のまち、釧路に到着


蜂谷あす美(はちやあすみ)

鉄道と旅を中心としたエッセイや紀行文などを執筆。

2015年1月にJR全線完乗。



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