ユネスコ食文化創造都市 認定10周年記念 No.3

〈特集〉 食と観光のちから


一般社団法人DEGAM鶴岡ツーリズムビューロー 

中 野  律 

 ―心に通ずるものは胃を通る―

 ご縁あって一緒にお仕事をするようになった料理家の井澤由美子さんと初めてお会いした時に名刺に添えてあった言葉です。井澤さんがいつも頭の片隅においている大切な言葉だそうです。井澤さんは著書のなかでもこの言葉に触れ“誰かが毎日作ってくれるおみそ汁は、その思いやりが食べた人の心に届き、からだはもとより思考さえも左右する。そして心身に健やかさが宿る。あるいは、雪降るなか振る舞われる一杯の甘酒に心が満ちていく。食べものとはそんなふうに巡るものではないかと思いながら、日々料理を作っています”と…

 何げなく口にする料理に込められた温かさに気づく瞬間、人は心の中に特別なものを感じるのではないでしょうか。今、自分の目の前にある料理に込められた思い、それはこの料理を作ってくれた人、料理を作るまでの過程にいるたくさんの人、はたまたはるか遠くこの地で暮らしていた先人からのメッセージさえ、時空を超えてこの一皿の中にあるのです。

 私はそんな一皿に込められた“食べものがたり”を伝えたく、「鶴岡ふうどガイド」をつくりました。2014年鶴岡ふうどガイドが誕生してから、一番多くご案内させていただいたのはハミングツアーのお客様です。

 一般的に他の地域や国を訪れる際に人々が期待することは、風景や史跡、文化やその土地ならではの食べ物を通じて心の静養と自分の内面や行動に変化が生まれることだそうです。

 一方で、受け入れる側である私たちもお客様からたくさんの気づきをいただいてきました。ある高齢の農家さんが みなさんが“おいしい”と言って食べる笑顔を見ながら「いつ辞めようかと思ってだけど、これだば来年山一つ増やさねまねの!」と冗談で言った言葉が私の心にいつまでも残っています。コロナ明け“また来たわよ!”“楽しみにしていたのよ!”といった何げない皆さんの言動が心を弾ませてくれました。

 庄内地域は7月の豪雨で大きな被害が出ています。それでも被害のなかった地域では作物が順調に実りの秋を迎えようとしています。観光バスは「旅行に来ています」という一番わかりやすいメッセージです。ぜひハミングツアーの大きなバスに乗って庄内の食を楽しんでください。皆様が楽しむ姿が力になります。

 ―心に通ずるものは胃を通る―

 最後に、井澤さんの言葉を借りるなら食べものとは人や地域に良い気を巡らせるものではないかと思いながら、これからも食と観光に関わっていこうと思います。

ハミングツアーの鶴岡・庄内企画総合プロデューサー

(一社)DEGAM鶴岡ツーリズムビューロー DMO職員

ユネスコ食文化創造都市鶴岡の魅力ある食文化を伝える「鶴岡ふうどガイド」事務局として食文化に特化した旅行企画を担当



旅がより楽しくなる!鶴岡ふうどガイド

鶴岡の特色ある食材と旅行者をつなぐ市民ガイド。特別な講習を受けた専門ガイドならではの詳しい案内で、食文化への理解が深まります。

わからない事があったら何でも質問してくださいね!


<協力>鶴岡市 企画部食文化創造都市推進課

    一般社団法人 DEGAM鶴岡ツーリズムビューロー


庄内を代表するレストラン

アル・ケッチァーノ

奥田シェフから

ハミングツアーのお客様へ


アル・ケッチァーノ  オーナーシェフ  

奥 田   政 行 

 庄内は、7月の豪雨災害でこれから収穫という作物に被害が出て、今年の収入がゼロになった生産者さんもいます。収穫を心待ちにして大切に育てていたものを一瞬にして失い、これまでの苦労が何の意味も持たなくなった生産者さんの心情を思うと自分の体の一部がなくなったようなさみしさがありました。

 これまで東日本大震災、熊本地震、能登半島地震等で被害にあった地域で、料理を支える生産者の元気を取り戻すことが料理人の私ができることだと復興に向けた支援をしてきました。

 この度、ハミングツアーの小柳社長から山形県に心を寄せていただき、観光で支援をしたいというお気持ちを頂戴しました。12月7日の『奥田シェフの遊佐特別コースランチ』はスケジュールを変更して奥田も皆様をお待ちしております。

 私は新潟県に住んでいたこともあり、こうして新潟の皆様から庄内の支援をしていただくことをとてもありがたく、そして心強く思っております。

 ぜひ、ハミングツアーで庄内へ、庄内を観光で応援してください。

 

アル・ケッチァーノオーナーシェフ。東京でイタリア・フランス料理を修業し、帰郷後ホテル・レストランの料理長を務める。2000年に「アル・ケッチァーノ」をオープン。地元食材にこだわり生産者の顔の見えるメニューを提供。2004年から「食の都庄内」親善大使として国内外で活動を続ける傍ら生産農家支援を継続。