蜂谷あす美
RAILROAD COLUM vol.19
旅の文筆家、蜂谷あす美が時刻表を携え、日本全国を鉄道でめぐる一人旅。
今回は2022年開業の西九州新幹線へ。
JR全線完乗タイトル奪還の旅をお届けします。

2022年9月に武雄温泉(佐賀県)~長崎を結ぶ西九州新幹線が開業したことにより、わたしの「JR全線完乗」の肩書が失われた。タイトルを奪還すべく九州へと向かったのは2023年4月のこと。


西九州新幹線の “完乗”を目指して
まずは博多駅で腹ごしらえとして、九州ならではの柔らかい麺が味わえる立ち食いうどんをいただき、さらに向こうのホームに見える立ち食いラーメンにも突撃した。お腹が満足したところで行先に長崎を示す特急「リレーつばめ」に乗車。この特急列車は、実際には武雄温泉までしか行かないのだけれども、その先を走る西九州新幹線「つばめ」ときっちり接続するダイヤが組まれている。そのため、このような行先が表示されるのだ。
では、どれくらい きっちり かというと、武雄温泉駅で特急列車を降りる
と、ホーム真向かいに西九州新幹線が待ち構えていて、3分後には発車する。スムーズな時間設定はありがたいものの、ホーム上で撮影に勤しんだり、あるいは列車を子細に観察したりしていると置いていかれてしまう。
乗り込んだ西九州新幹線は、普通列車であっても2列×2列のゆったり配
置で、座席は木のぬくもりが感じられる仕様。ちなみにJR九州の車両は床
や座席に木が使われるなど、ほかのエリアとは異なる特徴が多く、それゆえ
人気も高い。





ところで、この旅の目的は西九州新幹線の乗りつぶしにあったわけだが、武雄温泉~長崎の所要時間はわずかに30分。あっと言う間にJR全線完乗の更新作業は完了してしまった。
この日の宿泊地長崎は、大皿の料理を直箸でいただく宴会スタイル「卓袱料理」が有名な地。ただし一人旅をする者の悲しき宿命として円卓を囲む相手がいない。そこで行きついたのが、ジャンボ茶わん蒸しで知られる老舗店「吉宗」の「ミニ卓袱料理」だった。1927年に建てられたお店の広い和室で、宴会料理を静かにいただき、長崎の夜を過ごした。
海の絶景駅で思わぬ出会い
初日のうちに旅の目的を果たしたことから、翌日はおまけの1日となった。まずは長崎駅から普通列車に乗り込んだ。前面がLEDライトに縁どられていて、デコトラのようなギラギラした外観がひときわ目立つ車両だった。ちなみに鉄道趣味者の間では「イカ釣り漁船のようだ」などとも言われている。

やたら派手な車両に揺られることおよそ1時間。たどりついたのはホームが大村湾に面した穏やかな海の絶景駅、千綿駅だった。同じように旅行者風の女性も一名、同じ列車から下車してきたのだ。そして「写真撮るの上手そう!撮ってほしい」と声を掛けられた。
わたしはというと「この角度から」「ここが背景になるように」と言われるまま、女性のスマホのカメラのシャッターを押した。一通り撮影会が終わったのちは、次は立場を交代して、わたしの撮影会もなぜか始まってしまい、「ここに立って」「こちらを向いて」と指示を受けるまま、なれないポーズをとった。女性は九州在住の方で、お話によれば全国あちこちの鉄道に乗りに行かれているとのこと。おススメの路線をいくつも教えてくださり、「ぜひ乗りに行ってほしい」と仰った。いろんな路線どころか、JRの路線すべてに乗り尽くしていることは、最後まで言えず仕舞いだった。
本当は、千綿駅という静かな無人の木造駅舎で、海を眺めながら一人の静かな時間を過ごすつもりでいた。ところが旅というのは決して予想通りにはいかない。そして、想定外のことが起こったほうが思い出はいつまでも鮮烈に残り続けるのだった。
(文・写真 蜂谷あす美)


蜂谷あす美(はちやあすみ)
鉄道と旅を中心としたエッセイや紀行文などを執筆。
2015年1月にJR全線完乗。
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